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 ◆ JASPIC メルマガ 2014年10月号 ◆
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本メルマガでは、定期的に日本SPIコンソーシアム(JASPIC)主催のイ
ベント情報やJASPIC研究員によるコラム等をまとめてお伝えします。

* SPI(Software Process Improvement):ソフトウェアプロセス改善

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 ◆目次
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 1. これから開催するイベント
 2. 分科会の紹介: SPI推進課題分科会
 3. コラム: 岸田 孝一(JASPIC理事長)
           「プロセスについて」
 4. SPI Japan 2014 実施報告
 5. 会員募集

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 ◆1. これから開催するイベント
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これから開催するイベント情報についてご案内します。

●JASPIC例会(JASPIC研究員限定です)
  日  時:2014年11月14日(金)
  内  容:1.会員企業の事例発表(ニコンシステム様)
          2.外部講師による御講演
          3. SPI Japan 2014 受賞者による御講演
          4.カンファレンス実施/参加報告
            ・SPI Japan 2014

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 ◆2. 分科会の紹介
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JASPICでは、あるテーマに対して興味を持つメンバが集まり、一年間
にわたって議論する場として12の分科会が活動しています。その中か
ら今回は、SPI推進課題分科会をご紹介します。

●SPI推進課題分科会

SPI推進課題分科会は、チェンジマネジメント分科会として2003年に
4名で発足しました。活動内容は組織変革、組織論、組織心理学の体
系化された書籍を読み、SPIの現場への適用を議論することでした。
参考文献は「組織の心理学」田尾雅夫・「学習する組織」ピーター・
センゲ・「10thイニング」ジョージ・ヤマムラ・「システム思考法」
ワインバーグ「拡張による学習」エンゲストローム等々です。その後
議論をより具体的にするため下記コンセプトを決め、名前を改めまし
た(SPI推進課題分科会)。(2005年資料より)
  ・議論を重視する(継続)
    ・各自が聴き、解釈し、たくさんの具体例を全員の知見とする
    ・主題よりも派生して出てくるTipsに価値がある
  ・成果物にはコンテキストを含める
    ・汎化された成果物からは真実が抜け落ちる可能性がある
  ・結論は出さずに、それぞれが持ち帰る
    ・成果物の届け先、位置づけ、使い方には捉われない

その後の活動は上記コンセプトに沿って議論してきて今に至ります。
成果物の質をある意味無視して、結論を出さない、と言う点が分科会
参加者のSPIチャンピオンとしての能力向上には非常に役に立ってき
たと考えています。分科会の参加者は、コンサルタント、事業部長、
現場のPJリーダ、全社のSEPGリーダ、とバラエティに富んでいたこと
も非常に良い要因でした。しかし、昨年から分科会の運営では非常に
悩ましい事態がおきています。ちょうどJASPICの方針も洗練され、再
利用可能成果物にフォーカスする転換が行われていて、分科会として
も、発信のフェーズに移行したいと考えていたところでした。今、分
科会内には3つの意見があります。
  ・分科会でやっているのと同じことをフレームワーク化する方法
    議論してスキルアップする方法を形にする
  ・今までの議事録から、事例集を作り、それを成果物とする方法
    さまざまな課題について議論した際、こうするといい、というTips
    がいっぱい出ている。それを集めたものをどんどん見せると良い
  ・今までの議論からパターンを抽出する方法
    コンテキストをつけ体系化された文書とのトレーサビリティを示
    しながら、客観性、説得性(=使われる確率)の高いものを作る
    どれも一理ある意見ですが、活動の方向性としてはかなり違います。

そこで、ひとつに絞る議論をしようと皆で試みたものの、上記3つだ
けでなく、亜種や中間種も出てきて、なかなか難しい。(実は今期は
上の整理にたどり着くために時間を消費しました。)しかし、皆、こ
れはどこかで見たシチュエーションだな、と思いながら議論に参加し
てくださっています。…SPIの方向付けの議論ですね。
ある程度成果があがって一息ついたときに次にどれに手をつけるのか、
と言うわけです。このような議論を皆で存分にすることはJASPICの分
科会のひとつとして、非常に正しいことだと考えています。

現状は、皆が(実用的なレベルまで)納得できる判断基準をどうやっ
て共有するかを模索しています。今、試してみようとしているのは、
「目的合理性」の適用です。ということで、邁進と言うよりは、注意
深く、じりじりと進んでいるところですので、爽快感の無い年度にな
りますが、そういう議論にも興味があるという人は是非お声掛けくだ
さい。

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 ◆3. コラム:「プロセスについて」
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20代の半ばに,偶然のきっかけで始めたコンピュータ・プログラミン
グの仕事が予想以上に忙しく,そのうちに友人たちとソフトウェア・
ハウスを立ち上げるというプロジェクトに首を突っ込んだりしたので,
それまで本気で考えていた絵描きになる夢をあきらめざるを得なかっ
た.しかし,Moonlight Painter としての努力はそれなりに続けてい
た.1970年代初めから10数年間続けたサンデー毎日誌の連載を中心と
するパズリストとしての仕事も,抽象絵画を描く時間が取れなかった
ことの代償行動だったかもしれない.大学時代の友人たちと結成した
芸術グループが1985年に活動を再開し, それ以降,毎年1回開かれる
グループ展へむけての作品作りがわたしの夜のメイン・ビジネスだっ
たのだが,そのグループの活動も2年前に終わることになったので,
これからは在野のアーティストとしての単独行動の計画を立て直さな
ければいけない.

わたしが本来の学業を放棄して絵画の世界に没入した1960年代は,国
際的な活動の中心をそれまでのパリからニューヨークに移した第2次
大戦後の世界の美術界における抽象表現主義運動の最盛期であった.
ジャクソン・ポロックやウィレム・デ・クーニングらに代表される画
家のグループは,対象を「美しく」描いて何らかのメッセージを観る
者に伝えるというそれまでの美術についての常識を否定し,何かを
「絵に描く」のではなく,ただ「絵を描く」のだというスタイルにし
たがって制作活動を展開した.すなわち,かれらは何も抽象したりせ
ず,何も表現しようとしていなかったのだ.だれが名付けたのかは知
らないが,「抽象表現主義」というネーミングは,まったくその実態
からかけはなれていた.

1969年の末にニューヨークで開かれた戦後美術の回顧展で,美術評論
家のヒルトン・クレーマーは抽象表現主義について次のように述べて
いる:

「その原動力は,絵画をその美学的な本質に還元させる方向に向かっ
ていたといえるだろう.すなわち,作品を純粋な美学的語彙に還元し,
その絵がどう作られたのかというプロセス以外のことがらが観客の心
に引き起こされないようにすること,そこでは歴史とか心理的経験と
かいったものすべてが排除され,ある意味では手軽なパラダイスが提
示され,われわれは視覚を通じてその中に逃げ込むことが可能になる」

ジャクソン・ポロックの影響を受けて絵を描き始めたわたしは,以後
半世紀近くの時間をクレーマーのいう「パラダイス」作りに費やして
来たのだが,世の常識を完全に振り切って「ただ絵を描く」という作
業を実践するのは,それほどやさしい仕事ではなかった.

そして,とりあえず絵筆を捨ててコンピュータ・プログラミングに携
わったわたしの関心事は,与えられたプログラム仕様とは無関係に計
算処理プロセスの構造をどのように組み立てるかという,いわば「美
学的な」問題であった.エドガー・ダイクストラやマイケル・ジャク
ソンといった人たちと歩調を合わせて構造化プログラミングの方法論
の追求に力を入れる結果になったのは,自然の成り行きだったといえ
るだろう.

1970年代の末にM・M・レーマン先生とお近づきになり,時間の経過に
ともなってソフトウェア・システムが変化して行くプロセスを展望す
る進化論的な視点に目を開かされた.それから10年後,ICSE コミュ
ニティの中で,リー・オスターワイルさんのプロセス・プログラミン
グや,ワッツ・ハンフリーさんの CMM といった話題が持ち上がり,
ソフトウェア技術者協会のプロセス分科会 (SEA-SPIN) やJASPIC と
いった国内のボランティア活動に巻き込まれることになった.国際的
には,第1期の国際プロセスワークショップ(ISPW)で,プロセス・
プログラミングを中心とする興味深い議論を現場で聴く機会に恵まれ
た.その後,新しい世紀に入ってからは,プロセス問題を議論するヨ
ーロッパのコミュニティ EuroSPI 会議に招かれて,ソフトウェア,
システムそしてサービスのプロセスに関する改善 (Improvement) や
革新 (Innovation) について考える機会を与えられた.

ソフトウェアを構成する2つの本質的な要素は,「プロセス」と「構
造」である.前者は時間に関係し.後者はそれと対照的な空間概念で
ある.したがって,あらゆるソフトウェアの設計において,時間と空
間とのバランスをどう扱うべきかが,最も重要なポイントになる.多
くのソフトウェア・エンジニアは,その問題を,対象アプリケーショ
ンの内容(仕様)と関連づけて対処しているように思われる.SA/SD、
オブジェクト指向,アジャイル,プロダクトラインなど,これまでの
ソフトウェア工学で提唱されて来た方法論はいずれもその路線に従っ
て発展してきた.それとはちがって,いわば「抽象表現主義」風のア
プローチを用いて,対象アプリケーションとは無関係にソフトウェア
・プロセスやシステムの構造を考えたらどんな結果が生まれるだろう
かということに,ここ数年興味を惹かれている.

岸田 孝一(JASPIC理事長)

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 ◆4. SPI Japan 2014 実施報告
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2014年10月15日-17日で“「伝わる」~“カイゼン”の想いを感じ、
その輪を広げよう~”をテーマに SPI Japan 2014を開催いたしました。
一般発表27発表の中から以下の方々が受賞されました。

最優秀賞
  パッケージ製品の継続的開発におけるPDCAサイクル定着への取り組み
        住友電工情報システム株式会社 松田行正様

実行委員長賞
  “カイゼン”の輪を効果的に広げるマフィアオファー
        株式会社日立製作所 八木将計様

プログラム委員長賞
  SPI活動の活性化と組織定着への取り組み
        東芝テック株式会社 寺野下昌秀様


なお、発表資料は11月末を目途にJASPIC Webサイトに掲載いたします。

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 ◆5. 会員募集
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JASPICは、現在、19社によって構成されています。SPIの技術や活動の
進め方を学びたい、議論したいという法人会員を募集しています。
詳しくは、次のサイトを参照してください。

  ■入会について
    http://www.jaspic.org/modules/profile/index.php?content_id=5
  ■会員企業と運営体制
    http://www.jaspic.org/modules/profile/index.php?content_id=10

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 ◆編集後記
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メルマガ編集担当のA.Kです。
今月はSPI Japan 2014が盛況のうちに開催されました。ご参加いただ
いた皆さま、誠にありがとうございました!来年は姫路にて開催の予
定です。多くの皆さまのお役に立つプログラムを検討してまいります
ので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

さて、すっかり秋めいてきましたね。
昼夜の気温差が激しく体調管理が難しい季節ですが、この気温差が激
しいほど美しい紅葉が見られると言われています。
紅葉が早くに始まる北海道では既に見ごろを過ぎている場所も多いよ
うですが、日本一遅い紅葉が楽しめるのは熱海市の熱海梅園と言われ
ています。少し意外な感じもしますが、温暖な気候の一方で園内を流
れる小川により夜間の気温が急激に下がるため、この寒暖差でゆっく
りと色付くのだそう。また熱海梅園は早咲きの梅でも有名で、紅葉と
梅が同時に楽しめる年もあるそうです。
食欲の秋ということでついつい味覚狩りばかり連想してしまう私です
が、たまには紅葉狩りに出かけてみるのもいいですね。

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 JASPIC メルマガ 2014年10月号
 発行:日本SPIコンソーシアム http://www.jaspic.org/
 お問い合わせ先:infoAアットjaspic.org
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