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 ◆ JASPIC メルマガ 2021年12月号 ◆
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本メルマガでは、定期的に日本SPIコンソーシアム(JASPIC)主催のイ
ベント情報やJASPIC関係者によるコラム等をまとめてお伝えします。

* SPI(Software Process Improvement):ソフトウェアプロセス改善

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 ◆目次
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 1. これから開催するイベント
 2. JASPIC新ロゴのお知らせ
 3. コラム:細川 宣啓(日本アイ・ビー・エム)
    「技術的負債とプロセス、ルール」
 4. SPI Japan 2021を無事に終えて~実行委員長からの挨拶~
 5. SPI Japan 2022のご案内
 6. 会員募集

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 ◆1. これから開催するイベント
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JASPICの新年度は12月から開始となります。今年度は下記のイベント
を予定しております。

●JASPIC例会(JASPIC会員限定です)
  開催日程:2/18(金)、4/12(火)、 7/14(木)、11/8(火)、12/14(水)

●JASPIC合宿(JASPIC会員限定です)
  開催日程:6月予定

●SPIトワイライトフォーラム
  開催時期:未定

●SPI Japan 2022
  開催日程:10/5(水)~7(金)
  開催場所:タワーホール船堀(東京都江戸川区)
  ※COVID-19などの状況によってオンライン開催なども検討します。

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 ◆2. JASPIC新ロゴのお知らせ
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JASPICホームページ(http://www.jaspic.org/)をご覧いただいた方は
気が付いていると思いますが、JASPIC設立20周年を契機に、2021/12/1
からのロゴマークが新しくなりました。
新ロゴマークはSPIの文字を組み合わせたデザインに日本の伝統色であ
る藍色と桜色を取り入れ、日本SPIコンソーシアムを表しています。
このマークで、より多くの方にSPI活動ならびにJASPICを認知していた
だけるよう活動していきます。なお、2021/11/30以前の資料には旧ロ
ゴが掲載されていることがありますが、ご了承願います。

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 ◆3. コラム:「技術的負債とプロセス、ルール」
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昨今のDXの文脈の中で語られることの多い分野に技術的負債がありま
す。今回はこの技術的負債と負債返済の阻害要因について考察します。

古くは1980年に発表されたMeir M. Lehmanの論文(*1)には、ソフト
ウェア保守に関する有名な法則「リーマン法則」があります。この中
に第二法則として複雑度の増加 (increasing complexity) が次のよ
うに述べられています。

[Lehman’s Law #2 Increasing Complexity:As an evolving
program is continually changed,its complexity,reflecting
deteriorating structure,increases unless work is done to 
maintain or reduce it.
(複雑さの増大:進化するプログラムが継続的に変更されると、維持
または削減する作業をしない限り、構造の劣化を反映して複雑さが増
加する。)]

この論文の中では、第二法則として複雑さは「何もしなければ」増大
し続けること指摘しています。言い換えれば1980年時点でソフトウェ
アプログラムの構造劣化が指摘されていたにも関わらず、複雑度を
「維持または削減する作業」は40年後の現在まで本当に行われてきた
か、構造劣化への対応が十分になされてきたか、甚だ疑問が残ります。

同じことは1991年には技術的負債という表現を初めて用いたHoward
G.Cunninghamも、次のように述べています。

[技術的負債:最初のコードを出荷することは、借金をするようなも
のだ。少々の借金は、書き換えによって速やかに返済される限り、開
発を加速させる。危険なのは、その負債が返済されないときだ。]

彼の1991年の論においても「負債の返済(=特別なこと)をしない限
り」実装の負荷によってエンジニアリング組織全体が停止する可能性
があると主張しています(*2)。今から30年も前の彼の警鐘です。

時を同じくして1994年にソフトウェアの経年劣化(*3)についてDavid
Lorge Parnasも同様の主張を述べています。いわく、設計を理解して
いない人によってアーキテクチャを破壊するような変更が徐々に行わ
れる、ドキュメントが不適切な環境下ではソフトウェアシステムを理
解するのに多大な時間を要するなどの点について指摘し、頻繁に更新
されることがないならばソフトウェアの寿命に到達している、という
主張です。

彼らの時代からシステムやソフトウェアに対する技術的負債はその存
在が認められてきたものの、我々は、毎日の機能追加に邁進してきた
経緯があります。(Cunninghamの言葉を借りれば)「負債」の返済の
ためのモダナイゼーションを中心としたDXを推進することはおそらく
総論正しいでしょう。既にモダナイゼーション研究の分野では、コー
ドリファクタリングやAIによるコード分析などによってある程度のシ
ステムの若返り手法(これを経年劣化問題の対義語として"Software
Rejuvenation"と呼ぶこともあります)も検討されています。しかし、
そのための企業投資や具体的施策にまで落ちていないのが実情です。

技術的負債の返済が進まない理由は、技術的観点もさることながら、
文化面・制度面の課題が大きいでしょう。国内企業が採用するシステ
ム・ソフトウェア開発プロセスについては、90年代から2000年代前後
にかけて「ソフトウェア機能量(=生産量)を最大化」を目指した開
発プロセス・規程が多く採用されました。これはシステム寿命を伸ば
すことを最優先目標とする現代の開発プロセス・規程のあるべき姿と
異なる(時として矛盾している)可能性があるわけです。別の例では、
AIの開発とそのプロセスやAgileスプリントを通じたプロトタイプ作
成などの先進的な技術活動が、古い開発プロセスや既に形骸化してい
る組織ルール類と矛盾する事態もよく観察される問題です。折角、志
ある技術者がシステムの寿命を憂えてリファクタリングやコード不備
対策、アーキテクチャーの崩れ予防を声高に叫んでも、「プロセスに
ないことをするな」「そういう予算はない」といつ頃・誰が規定した
かわからないプロセスを盾に拒絶される場合すらあります。

一般に「人間はうまくいっているものはできるだけ長く使い続けよう
とするものである」「人間の脳は急激な変化を拒絶するもの」と言わ
れています。長期間かけて技術的負債が増大する変化、短期的・急激
な技術自体の変化に対して、既存ルールやプロセスを盾に変化を拒絶
する悪習は(人間の本能と言わざるを得ないにせよ)人的負債・組織
的劣化と表現するのが良いかもしれません。

DX実現、これを本気で目指すならば、旧来の文化・ルール・開発プロ
セス等の文化面こそ最優先で変革すべきではないかと筆者は考えます。
いわゆる銀の弾丸に見える「ド派手」な技術面よりも、です。

DXという流れを画餅に終わらせないために、今何ができるかを古い
ルール・既存の開発プロセス・文化の面から真剣に見直す時期なのか
もしれません。

1. Meir M. Lehman, “Programs, Life Cycles, and Laws of 
Software Evolution”. PROCEEDINGS OF THE IEEE,
VOL.68, NO.9, SEPTEMBER 1980.

2. Howard G. Cunningham, “Debt Metaphor” : 技術的負債について
はCunningham氏本人による動画での解説(”負債の比喩” : 
https://www.youtube.com/watch?v=pqeJFYwnkjE)が公開されています。
一見の価値ありです。)

3. David Lorge Parnas “Software Aging”, Proceedings of the 
16th International Conference on Software Engineering, IEEE 
Computer Society Press 1994,
P279-287:
https://dl.acm.org/doi/pdf/10.5555/257734.257788

日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所 ハイブリッド・クラウド
メインフレーム・モダナイゼーション 部長
細川 宣啓

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 ◆4. SPI Japan 2021を無事に終えて~実行委員長からの挨拶~
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10月6日から8日まで、SPI Japan 2021 ソフトウェアプロセス改善カン
ファレンスをオンラインで開催しました。今年もたくさんの方々にご
参加いただき、本当にありがとうございました。

今年のテーマは、
「いかす ~新たな時代に“カイゼン”の力を~」
でした。

・基調講演では、株式会社クレディセゾンの小野和俊様より、組織と
してどうあるべきか、人材の能力を引き出すためにはなど、ご自身の
経験からデジタル時代にもとめられる「カイゼン」について、ご講演
いただきました。「職場で実践してみたい」、「大変参考になった」
と好評でした。

・みんなでディスカッション、コミュニケーション広場では、コミュ
ニケーションツールを利用して、議論や情報交換を行いました。初め
てのツールや新しい試みで、ご迷惑をおかけしたところもありました
が、「フランクに話ができて良かった」、「リモートでもリアルに近
いディスカッションができた」との感想をいただきました。オンライ
ンでも参加者同士で交流してほしいという目的を達成することができ
ました。

・一般発表では発表者交流会として、質疑応答以外に発表者と直接会
話できる場を作りました。「質疑応答よりもじっくり話ができた」、
「参加者から直接コメントをもらえる機会になった」など、聴講者、
発表者の双方から好評でした。表彰の2件は、いずれもオンラインでの
活動に関する発表で、新様式に向けたヒントになる内容でした。

・トーク&納得セッションでは、JASPIC分科会のワークショップや活動
紹介を行い、多くの方に興味を持っていただきました。分科会へのお
問い合わせや参加希望は、事務局までお願いします。

・パネルディスカッションでは、JASPIC設立20周年にちなんで、「変
えるもの/変えてはいけないもの ~自社とJASPICと産業界の20年の改
善活動を振り返って~」というテーマで、長きにわたりSPIに関わって
きたレジェンド達に、これまでの振り返りとこれからについてディス
カッションしていただきました。ベテランはご自身のこれまでの活動
に重ねて、若手は先人の積み上げてきた歴史を知ることで、これから
の活動に「いかす」気づきを得られたのではないでしょうか?

SPI Japan 2021は昨年に引き続き、オンライン開催となりましたが、
登壇者からの一方通行ではなく、参加されたみなさまが直接交流でき
る新しいプログラムにチャレンジしました。参加されたみなさまが、
それぞれの「いかす」を見つけることができたならば、スタッフ一同
大変うれしく思います。

また、基調講演や一般発表、パネルディスカッションの発表資料は、
以下のリンクから参照可能です。参加された方も、参加できなかった
方もこれからの「いかす」につなげていただければと思います。
http://www.jaspic.org/events/sj/spi_japan_2021/


最後になりましたが、今回のカンファレンスに参加された皆様、ご協
力、ご支援いただきました方々に対し、御礼申し上げます。

来年こそは、リアル開催でみなさまにお会いできることを願って!!
SPI Japan 2022 でお会いしましょう。

SPI Japan 2021
 実行委員長   竹内 朝一
 副実行委員長  武田 治紀
 プログラム委員一同

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 ◆5. SPI Japan 2022 のご案内
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毎年実施しておりますSPIに関する国内有数のイベント、ソフトウェア
プロセス改善カンファレンス(SPI Japan 2022)の開催日と開催場所
が決まりました。

  ■日程:2022年10月5日(水)~7日(金)
  ■場所:タワーホール船堀(東京都江戸川区)
          https://www.towerhall.jp/
     ※COVID-19などの状況によってオンライン開催なども検討
     します。

皆様からの改善活動の成果や失敗から得た知見などの発表やディス
カッションを予定しております。詳細は追ってご案内いたします。

http://www.jaspic.org/events/sj/spi_japan_2022/

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 ◆6. 会員募集
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JASPICは、現在、16社の法人会員および個人の会員によって構成され
ています。SPIの技術や活動の進め方を学びたい、議論したいという
法人会員、個人会員、分科会会員を募集しています。
詳しくは、次のサイトを参照してください。

  ■入会について
    http://www.jaspic.org/organization/join_us/
  ■会員と運営体制
    http://www.jaspic.org/organization/members/

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 ◆編集後記
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メルマガ編集担当のA.Kです。
2021年もまもなく終わりですね。今年もコロナ禍で大変な一年でした
が、最近は落ち着きを取り戻しているように思います。
飲食店も通常営業に戻り、感染対策を万全にすれば複数人での会食も
できるようになりました。1年以上ぶりに顔を合わせる知人との乾杯な
どは感慨深いものがあります。オンライン飲み会も便利ですが、やは
り対面の空気感は良いですよね。
ところで、久しぶりにお酒を飲むと酔いやすい気がしませんか?これ
にはちゃんと理由があるようです。お酒を頻繁に飲んでいると、後天
的なアルコール分解酵素の活性が強くなりますが、間が空くと、この
働きが弱くなり少量のお酒でも酔いが回るのだそうです。久しぶりの
飲み会で楽しいからといって飲みすぎには要注意ですね。
今年は大谷翔平選手の活躍で「二刀流」という言葉が流行しました。
お酒を飲む際は、チェイサーの水との「二刀流」がいいかもしれませ
ん。

今年も一年メルマガにお付き合いいただきありがとうございました。
すてきな年末年始をお過ごしください。

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 JASPIC メルマガ 2021年12月号
 発行:日本SPIコンソーシアム http://www.jaspic.org/
 お問い合わせ先:infoAアットjaspic.org
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